ダンサーとミュージシャン

先ず、
このダンスに関する歴史や技術面の記事は現在WEB上にいくらでも見つける事が出来るかと思いますので割愛させて頂くとして、ここでは現在の主に国内におけるHIPHOPダンス・ダンサー(※ちなみにHIPHOPダンスという呼称は特に海外ではほぼ商業用語で、コア層間ではニューダンスとかニュースタイルと称されます)とそれを取り巻く世界の事を、どなたにでも分かり易く説明させて頂く為、以下少々乱暴ですがHIPHOPダンサー=バンドマンとイメージしてみて下さい。

一口にバンドと言っても出て来る音は千差万別で、例えばロックバンドと括られる中でも非常に多種多様なのは皆さんご存知のとおりです。こうでなければいけないという厳密な決まり事が無い分、聴き手の好き嫌い・直感的な評価で全てが決まる世界ではないでしょうか。
殆どの場合メンバー自らが作詞作曲他全てを創るので、演奏の技術面よりも(例えばプロであれば上手くて当たり前なので)音楽的思想や方向性・センスなどアーティストとしての力量が求められる訳です。
当初はライブハウス等から始まり、ステップアップ出来ればインディー〜メジャー契約へと至りプロのミュージシャンとなりますが、ダンサーの場合はどうでしょうか?

ダンサーのお仕事

チームを作ってCLUBでSHOWをする(日本の特徴としてソロよりもチーム活動の方が多い傾向にあります)というのが、バンドのライブハウス等での演奏と重なりますのでここをスタート地点と考えますが、(GIGとか対バンとかいう発想も似ていると思います)草創期から続いて来たこうした地道な叩き上げよりも近年では、
ダンスの専門学校や大手芸能事務所の経営するアクターズとかアカデミーとか呼ばれるスタジオからのルートで、フックアップを狙う様なパターンも多くなってきていて、後者の方はむしろHIPHOP以前から浸透しているジャズダンスの世界に近く、そのせいか現在主流のSTYLE HIPHOP(ダンススタイルの一つですが、詳しくはWEBを掘ってみて下さい)等では、ヒップホップとジャズの境目がかなり曖昧になってきています。
ただ、いずれの場合もその後の進路は以下の様になります↓

A. エキストラダンサー→アーティストのステージやCMなど主に群舞(大人数で踊る)要員としての需要を満たす為、その都度大量に招集される。(単発の撮影など現場によっては交通費も出ず、衣装も一部自前だったりします)
B. バックダンサー(俗称です)→ここはピンキリですので難しいのですが、あるアーティストの固有楽曲一つ以上を専属で踊りPVやLIVEのDVDなどでもクレジットされる(※ピン)、主にツアー等でオリジナルのサポートダンサーを補強する為に季節や会場単位で招集される(※キリ)場合と、関わり方は様々です。(大抵は○○ACTとか単にダンサーと記されます)
C. 振付師(コレオグラファー)→一般的には楽曲制作直後から携わり、担当アーティストや楽曲のイメージ創りにも一役買う。場合によっては”B”を兼務したり、ツアー等ステージの演出プランなど上物(うわもの)全てを任されたりもします。(こうなるともう振付師を兼ねる演出家ですが。)

職人かクリエイターか

ここ迄でお分かりかと思いますが自らのアーティスト・クリエイターとしての活動は”A”より前と”C”のみ(Bは職人としてのスタジオミュージシャンに類します)ですので、有名ダンサーでも人によってはアンダーグラウンドでのTEAMやUNIT活動等を続けていたりと、つまりアーティストとしてのダンサーの需要は市場的に希薄…という事なので、前出のバンドマン・ミュージシャンなら市場の小さいインストゥルメンタル方面が該当すると思います。
又、どこからがいわゆるプロのダンサーなのか?というのも微妙な話で、単にギャラの話で言えばCLUBでのショウケース等でもそれなりのダンサーなら例え海外からの召喚でもアゴアシマクラ(食・交通・宿泊費)含め相応のギャラは出ますし、上記以外のかなり攻めたパターンでは国内外問わずソロやチームバトルのイベントで賞金を稼ぐ、というのもあります。

ただ、
一般社会に当てはめて考えると、それのみで長期に渡り生活が成り立つ=プロとなるので、そういう意味では海外ですらストリート・HIPHOPダンスのプロフェッショナルといえるのは一握りで、しかも宿命的に流行に左右される性格上多くの場合”旬”の時期は長く無いのです。(※スタジオ等でのレッスンやワークショップは同じくダンスですがエンタメ活動では無いので一応別けて考えるべきです)
そんな事情もあってか、キャリアが進むとそれまでの活動を通じて築いた人脈を辿りミュージカル等芝居の世界へ進んだり、このジャンル全般の識者として大手プロダクション等に就職したりする例も見られます。

何処を目指すか

少々脇に逸れますが、スノーボードの世界でオリンピック等のコンペティションで見られる様なライダーが必ずしも頂点とは限らず、ビデオスターと称される様な、その筋で有名な人達が居たりと色々な関わり方がある様に、ダンサーもいわゆる芸能界一般に取り込まれる事無く、昨今特にSNSなどを足掛かりに独自の活動で生計を立てて行く事も可能(取り込まれてしまった方が確実に楽だと思いますが…)で、この方向は今後ますます増えていくのではないかと個人的には思っています。
只いずれの場合にせよ、〇〇コンテストで優勝といったアマチュア的プライズは実戦レベルでほとんど役に立たない事を付け加えておきます。

未来のダンス

肝心のダンスそのもはというとSTYLE HIPHOP以来、ここ10年程めぼしい流れが生まれていないと思いますので正直停滞ぎみだと感じています。
KRUMPやFOOTWORK等正式にはヒップホップダンスでは無くとも、共に地域文化的背景を色濃く持つという点から同列に扱って良いと思いますがそれらも随分前ですし、下記の楽曲傾向にハマりの良いNAENAEやJERK等パーティーダンス的な性格の波はありましたが、少なくとも国内ダンスシーンでの盛り上がりは今ひとつ。
大きな要因としてヒップホップミュージックそのものが拡散していて、その分セールス的には随分いい様ですが他のダンスミュージックとの交配が進み、DUBSTEPなのかTRAPなのかHIPHOPなのか曖昧になってきていて、同じ様にジャズダンスと交配した事でビートに頼らずとも踊れてしまうSTYLE HIPHOPがハマり易い、という事情が考えられます。
但し近頃のSTYLE HIPHOPの傾向として、
前出の楽曲が打ち込みによる比較的平板なビート感になっているので→動きを歌詞にハメにいくのですが、その際JAZZダンス的なアクティング(演技)が要求される事、その為リリックを吟味しないで振りを付けると酷い事になってしまう事、従ってアドリブで踊る事が困難と、やや敷居が高くなってしまっているのが残念です。

元来HIPHOPダンスとはそれ単体で考える事は出来ず、音楽は無論ファッションともリンクする文化としての背骨が非常に重要だったりします。大抵のダンスは人様の作った音楽に乗っからせて頂くものですが、特にヒップホップダンスはその時々の流行、時代背景から刺激をもらって生まれて来た歴史に加え、例えOLD SCHOOLでも当時のままという事は無く、微細ながら時期ごとにその筋での流行に揉まれ進化を繰り返していますので、長くダンスを続ける際にはその辺りを敏感に感じ取っていく事も大切です。

最後に

長々と書いてきましたが最もシンプルに捉えればダンスとはスバリ自己表現ですのでどの様な方向性であれ、ある程度掘って(ヒップホップ的にはDIGるとか言いますね)みればどなたにでも必ず得るものはありますし、例えば今日ダンスを始めましたとか、昨日やめましたとかいう類のものでも無い筈です。
ヒップホップダンスは元々、アフロアメリカンの文化的背景から生まれたダンスですが、特にエントリーレベルでは”格好良ければ何でもアリ”くらいの捉え方で頭でっかちにならず、型にはまらず楽しんでみる事をおすすめ致します。
おそらくはそういう肩肘張らない関わり方が、ダンスに限らずHIPHOP本来の姿なのでは無いでしょうか。

長野ダンスユニオン代表 飯田 昌芳